グランドアゲームズのボードゲームデザイナー大門です。タイトル通り、2人用ボードゲーム作るの、すごくええやん?って話を書きます。
SPIEL’19およびゲームマーケット2019秋で2人用の戦術シミュレーションゲーム「軍師軍略」をリリースしましたが、そのときの経験を中心にデータよりも主観でザザーッと書きます。ほんと、主観の塊。それだけは勘弁な
※この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2019(作成者:上杉カレー氏)の12日目の記事として書かれたものです。
書く記事については、ゲムマ2019秋後に「どうすればゲームマーケットで売れるのか?」的な話題が盛んだったようなので、そういった話にしようかなーとも迷いました。希望があればそっちも書くかも。
目次
魅力1:テストプレイやゲームシステムの改善が非常に楽
初めて二人用ゲームを制作しましたが、とにかくテストプレイが楽です。なんせ、自分ともうひとりいればOKなのです(当たり前)。つまり、友達が少なくても大丈夫!
また、3人用以上のゲームを制作するのとは違い、ゲームデザインをする際に追いかける必要のあるゲームプレイヤーの思考は常に1対1です。
たとえば3人用ゲームの制作だと、A対B対C、A対B、A対C、B対C、全員無干渉、などのパターンをすべて考えなければならない場合があります。さらに、これは「ゲームの目的の勝ち筋ごと」に考える必要性が発生するかもしれません。
カタンを例にとれば、基本的な勝ち筋は
- 道開拓地戦略
- 都市発展戦略
の2つに大きく分かれますが、これらをそれぞれのプレイヤーが選択したときにきちんとバランスが機能するかどうかをゲームデザイナーとしては考えなければなりません。
全員が都市戦略、Aのみが道戦略、AとBが道戦略……などといったようにです。テストプレイにおいて人数を集めるというハードルよりも、テストすべき勝ち筋パターンが多く考慮すべきインタラクションのパターンが爆発的に増える問題が立ちはだかります。
もちろん、すべてを追いかけることはできないので「ある程度破綻しない目処」が見えれば全パターンを試行錯誤する必要はありませんが、この「インタラクション」については複数人でプレイすることで初めて見えることも多いのが困りどころ。
しかし、2人用ゲームは前述のように1対1の形式で、たとえば大きく分けて2つの勝ち筋パターンをデザインしたとしたら、双方がA戦略、A戦略vsB戦略、双方がB戦略、この3種をプレイし、それぞれを昇華させていけばある程度しっかりしたゲームに仕上がります。楽です。
プレイヤー同士の思考も自分対相手を追いかければ良いので、テストプレイにおけるいわゆる「一人回し」もかなり高い精度で行えます。つまり、友達が少なくても大丈夫!
軍師軍略の制作も、次のような手順で進みました。
- アイデアが生まれる。すぐにテストキット作成
- ゲーム制作の大前提「体験」として「面白いかどうか」をチェックするテストプレイ(対人)
- 上記合格
- 一人回しのテストプレイでゲームシステムを煮詰め続ける。
- 前述の3パターンを実際に対人戦で試す
- 微調整
- ルールブック確認のために初見2人にプレイしてもらうx数回
ゲームデザインのチェックだけでなく、ターゲットとしてイメージしているユーザーが世界観に入り込めるかどうか、世界観からゲームルールを理解しやすい構造になっているかどうかのチェックも人数が少ないから非常に楽です。
今回の「軍師軍略」は、中国古代の軍略戦争における「軍師の戦い」をイメージして作られています(例:春秋戦国、三国志など)。
私自身、小学生のころからずーっと三国志が好きで「軍師ってどえれぇCoooooolじゃねぇの。最高やん。。。」と思ってた人間です。
今回のゲームは、同じような気持ちをもっていた人がターゲット。幸い、身近に「司馬仲達が心の師匠である」という三国志大好きすぎる友人が1名いました。自分に刺さる世界観・ストーリーだけでなく、きちんと「彼」にも刺さる世界観になっているかどうか。これをチェックするだけで良かったのです。
いろんな例を出しましたが、結論、二人用ゲームは
- テストプレイの一人回しが容易
- 対人戦でも1名いればOK
の2点から、テストプレイが楽でゲームとして昇華させやすかった、という話です。
考える内容が絞られている状態でゲームデザインを昇華させていく手順を何度も通るため、「ゲームデザイナーとしての力量」も成長したように思います。2作目や3作目に取り組むのは非常に良さそうです。
魅力2:構造上、赤字になりづらい。
ボードゲーム製品として、製造者、制作サークルが赤字になりづらい理由は2つあります。
- プレイヤー2人分なのでそもそも内容物の量が少ない(費用↓)
- 市場が求める需要価格が安くない一定値に落ち着くので売上確保が容易(売上↑)
まず、費用面について。
これもまた当然なんですが、2人プレイ用のゲームは、コンポーネントは2人分用意すればオッケーなんです。
木製コマ、木製チップ、高品質カード、どんとこい。4人用の半分で済みまっせ。
ボードゲームを製造する際、500個以上や1000個以上を製造するならスケールメリットがどーんと働いて印刷コストがものすごく下がり、安く生産できます。しかし、いきなり1000個って、かなりシンドイと思うの。
50個〜200個生産程度であれば、いろんな印刷所を使う、コマなどのパーツは個別発注する、自分で丁合&箱詰めのキメラ合体で勝負できます。このとき、工場からの製造発注ではなく、一般商店からのパーツ購入でも2人用ゲームならコンポーネント量が膨らまないのでダメージが少なめに済みますね。モック(テスト用ゲーム)を作るのも楽ちんです。
次、売上面について。
ボードゲームを買うとき、いくらまでならお金を払っていいか。うん、非常に難しい問題です。一度、自分がゲームを買うシーンを想像してみてください。
ゲームが面白い、ゲームの満足度が高い、っていうのは、実際のところあんまり買うときの「値段面」での判断基準にはなってないように感じます。
「この値段なら出してもいいよね」と思える、つまり「妥当だと思える」着地点は、概ね次の要素が相互に影響し合った結果だと考えられます。
- プレイ人数
- プレイ時間
- 想定するプレイシーン
- コンポーネント量(→実は殆どの場合は箱の大きさ)
たとえば、「フェレータ」というボードゲームがあります。
※画像はAmazonより
こちら、12歳以上対象、60分以上のプレイ時間、5人まで遊べる、と「しっかりめの」ゲームです。
折りたたみのボードだって入ってるし、大量のカード、厚紙タイルなどなど盛りだくさん。
でも、お値段なんと「1,800円」。ウッソやろお前アネクトパンチより安いやんけ!
理由は簡単。ちっさい箱です。ハゲタカのえじきやゲシェンクなどのサイズより小さいはず。すごく小さな箱にガッツリなコンポーネントと、ガッツリなルールのゲームが入っております。
ゲームシステム、プレイ人数、プレイ時間は、しっかり遊べる内容です。カタン程度の中量級ゲームなんです。
もしこのゲームの箱サイズがA4サイズで、それぞれのコンポーネントを大きくしたものであったなら、たぶん3000円〜4500円くらいでも売れたのではないでしょうか。いや、実際のところ、ゲームをプレイしたときは「そういう値段帯のゲームやんこれ」って感想になりました。
では、二人用ゲームの妥当感はどこに落ち着くのか。
2人用ゲームで1プレイ30分(かつコミュニケーションゲームではなくいわゆるボードゲーム)だとした場合、いくらまで支払っていいですか?
まったくの主観による感覚値ですが、だいたい「2000円〜3000円まではOKかな」と思わないでしょうか?
私自身は、どんなにコンポーネントが豪華でも、2人用で4000円以上は「高いな」と感じます(アルルの丘やトワイライトストラグルは除く)。なんだか「もったいない」感があるんです。でもこれ、とっても重要な感覚。脳は「なんとなく」で購入を決めるとされている学説がありますから。
ボードゲーム業界におけるゲームデザイナーは非常に特殊な立ち位置で、製造者でありながら、同時に熱心な消費者の場合が多い。いろんな商売の世界で「え?買い手の気持ちになったら至極当然わかるやん?」ってことがわからないことが多いのですが、ボードゲーム製作者には起こりづらい構造になっている。だから、製作者が思う「なんとなく」の感覚は、(同じタイプの消費者をターゲットとして設定したならば)たぶんそこまでズレてません。
2人用ゲームは多人数ゲームに比べ、想定するプレイシーンや「誰と遊ぶか」が明確です。購入ターゲットの行動が予想しやすいんです。買い手の脳内に「◯◯と遊べるなコレ」が生まれやすい。
2人用ゲームに比較して、3人以上のゲームは少々値付けが難しい、それは利用シーンが多様すぎるからだと感じます。
つまるところ、2人用ゲームでボードのあるゲームであり、最低でも15分以上のプレイ時間が想像できるゲームであれば、2000円の売価を設定できるし、ターゲットにとって「妥当感」の外側に出る可能性が少ないんです。
次の「市場の存在」も踏まえると、2人用ゲームは赤字になりづらいボードゲームといえます。
魅力3:日本には市場が存在する(つまり一定数は売れる可能性が高い)
なんの記事でみたか忘れましたが(英語の記事です)、ドイツのボードゲームの売上想定は、だいたい5億ユーロくらい、って書いてました。まぁ、日本市場の100倍くらいあるんですかね。
そんな主戦場ドイツで開かれる一番大きなイベント「SPIEL」に今年出展してきたわけですが、だいたいのパブリッシャーやレビュワーに言われたセリフは
「非常に面白いゲームだが、2人用ゲームは売ることが難しく取り扱うことができない」
ということでした。
よくユーロ圏では「家族」でボードゲームをするといいますが、実際、来場顧客をみているとそのとおり。ただ、日本のゲームマーケットと比較すると、その「家族」の年齢構成が非常に「高い」ことが多い印象です。50歳夫婦と息子(20代)夫婦、みたいな構成ですね。
日本のボードゲームシーンだと「家でボードゲームよくするんです!」というカップル・夫婦・家族のメイン年齢層は、20代から30代、お子様がいても小学生や中学生くらいのイメージではないでしょうか。
そういった背景もあるのかないのかぶっちゃけのところ知らんけど、体感としてユーロ圏と日本は、2人用ゲームにおいてはあまり規模が変わらない、という感覚です。
ボードゲームを遊ぶ層がまだまだ少ないこともあり、自分が遊びたくなって集められるボードゲーマーは、身近には2人や3人しかいないみたいな層が一定数いるっぽいです(俺だよ俺)
テラフォーミングマーズ、ウィングスパンなどの人気?の2〜5人用ゲームの感想をみていると、日本では妙に「二人で遊んでみた」というものを見かけます(バイアスかかってたらスマンやで)。ユーロ圏だと、少なくとも3人以上で遊ばれているイメージ。実際、SPIELの来場者をみていると、3人以上のグループが多めでした(家族だけでなく、青年3人など。ゲムマはどちらかというと「2人」で回ってる人、多くない?)
今回、軍師軍略の広報では
- 自社公式サイトに書く
- ゲムマ公式サイトに書く
- Twitterで軽めの告知
くらいしか行っていません。プレイ動画や説明動画を用意していないし、事前の体験会等を開いたわけでもなく、いままでの弊サークルの作品に比べ、露出は少ないほうでした。にもかかわらず、ありがたいことに予約が約100件。当日販売分は開始1時間程度で終了完売。140個程度がすぐになくなってしまいました。ありがとうございます!ありがとうございます!
「なんだこの売れ方は……」と嬉しい半分、恐怖と疑問半分でした。ただ、予約時やブースでいただいたコメント等から、ようやく見えてきました。多かった意見は
「こういう二人でしっかり遊べるボードゲームを待ってました」
というものです。わお。みんなもそうだったのね。俺もそう思ってたよ!いつもアグリコラを2人で遊んでたからな!フタリコラじゃなくてアグリコラな!でも、アグリコラ時間かかりすぎるのよ2人でも。
コミュニケーションゲームでもなく、いわゆる「ライトゲー」でもなく、中量級30分程度で2人用のボードゲームらしいボードゲームを求めている人が、日本には一定数いるのでは?という話です。
結論、2人用ゲーム市場がある可能性が高い。市場がある=儲かる!というそういう捉え方をしてほしいわけじゃないのでちゃんと書いておきますが、「そういうゲームが欲しいけど無くて残念がっているボードゲーマーがいる!」ということです(俺がそうだよ!いまだにオセロ最高!いうて遊んでますよ)
まとめ
2人用ゲームを制作するのがオススメな理由を、まとめます。
記事の順序とは違いますが、ロジック的にはこうなるはずです。
- 市場が存在。日本には2人用の重すぎないしっかりめのボードゲームが欲しい層がいる。
- しっかりめのゲームを作るには「ゲームとして破綻しておらず面白い」と感じさせるための「しっかりめ」のテストプレイが必要だが、必要人数・必要な試行回数の点からテストプレイが容易に行える
- 2人用ゲームは、売価が2000円〜3000円で妥当感がある。また、1の理由から売上が一定は見込める
- 個人の所有コンポーネントが多いタイプのボードゲームを作っても、多人数ゲームよりコンポーネント量が多く必要ないため、費用面で有利
- 赤字になりづらく、ゲーム制作をやり続けられるからハッピー
俺が二人用のしっかり目のボードゲームが欲しい
ということです。だから、みんな2人用ボードゲームつくろうぜ!おすすめだよ!
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